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創薬分野において、インキュベーションを通じた ハンズオン支援により起業をサポート。 大鵬イノベーションズとPRD Therapeuticsの 出会いから今後の展望まで。

創薬分野において、 インキュベーションを通じた ハンズオン支援により 起業をサポート。 大鵬イノベーションズと PRD Therapeuticsの 出会いから今後の展望まで。

PRD Therapeutics 〈企業情報〉

PRD Therapeuticsは天然物由来の脂質代謝制御剤「PRD化合物」の開発を目的として、2021年9月に設立された。
「PRD化合物」は、北里大学の供田洋名誉教授が、神宮外苑付近の⼟壌から採取された
真菌(しんきん、カビ) の培養液中から発⾒した新規化合物に由来する。
遺伝的要因によって脂質代謝異常を引き起こす希少疾患や、
非アルコール性脂肪性肝疾患などの治療を大きく前進させる新薬として、期待が高まっている。

大鵬イノベーションズは、インキュベーションパートナーとして、
起業前の2020年から細田 莞爾(ほそだかんじ)氏を支援してきた。
細田氏が、いかにして大鵬イノベーションズと出会ったのか。
インキュベーション契約締結に至るまでの経緯や起業後のエピソード、
日本において創薬ベンチャーが直面する問題について、
PRD Therapeutics株式会社代表取締役社長の細田氏(以下:細田)と
大鵬イノベーションズの森 文隆氏に語っていただいた。

Member

  • 供田 洋 北里大学薬学部
    微生物薬品製造学教室 名誉教授​
    PRD Therapeutics
    社外取締役 Co-Founder​
  • 細田 莞爾 PRD Therapeutics
    代表取締役社長
    Co-Founder​​
  • 森 文隆 大鵬イノベーションズ
    パートナー​​
  • 下村 俊泰 大鵬イノベーションズ
    代表/
    マネージングパートナー​​

北里大学薬学部発、
PRD化合物の開発を
目的として2人で立ち上げた
スタートアップ

はじめに、
PRD Therapeuticsの事業内容について教えてください。

細田:

PRD Therapeuticsは、北里大学薬学部の供田先生が発見されたシーズを実用化していくために立ち上げたスタートアップです。こちらのシーズをベースとしたファースト・イン・クラスの脂質代謝制御剤の開発事業を行っています。

もともと私は、供田先生のラボに学生として参加していました。修士課程修了後も特任助教として引き続きラボで働いていたのですが、供田教授の定年退職と私の任期終了のタイミングが重なり、「自分の研究成果から1つは薬を世に出したい」という供田先生の想いと、創薬研究・開発に興味を持っていた私の想いが一致し、2019年から供田先生と起業することを計画しました。最もポテンシャルがあると考えていたPRD化合物を使った新薬の実用化を目指して、さまざまな起業家向けプログラムに参加している中で大鵬イノベーションズの森さんにお会いし、2021年にPRD Therapeuticsを起業しました。

起業当時からビジネスとして参画しているのは私1人ですが、供田先生には社外取締役兼共同創業者になっていただいています。その後、新たに取締役が1名加入しましたので、現在事業に参画しているのは3名です。

PRD Therapeuticsの技術は、
北里大学薬学部での研究成果が
ベースということでしょうか。

細田:

はい。PRD化合物は、供田先生が当時北里研究所・大村智先生の研究グループに在籍していた時に、真菌の培養液から発見した天然物がベースになっています。2015年、大村智先生が放線菌の生産する抗寄生虫物質の発見によってノーベル医学・生理学賞を受賞されたように、北里研究所・北里大学は天然物研究の分野で長い歴史と大きな強みを持っています。供田先生は薬学部に移籍されてからも薬学部の先生方と連携して精力的に研究を進められ、天然物をベースに数多くの誘導体合成を行って改良を重ねられました。その中で一番良いと考えられた化合物が、現在私たちが開発している「PRD001」です。

米国のピッチイベントでの
出会いをきっかけに、
大鵬イノベーションズの
インキュベーション第1号に

大鵬イノベーションズとは、
どういったきっかけで
出会ったのですか。

細田:

2019年頃から、私は起業を目指してさまざまなアクセラレーションプログラムに参加していたのですが、その中の1つ「Blockbuster Tokyo2019」というプログラムで2020年1月に米国サンフランシスコで行われた「Biotech Showcase」というパートナリングイベントのピッチセッションに参加する権利を獲得しました。私が単身サンフランシスコに渡ってピッチを行ったのですが、そのピッチを大鵬イノベーションズの森さんがお聞きになり、終わったあとにすぐコンタクトを取っていただけたのが最初の出会いです。

森さんは投資先を探して、
そのイベントに
参加されていたのですか。

森:

私は米国の創薬ベンチャー企業のピッチを聞くためにその会場にいたのですが、ふと「日本人の先生が発表されているな」と気づいてじっくりと耳を傾けていたんです。PRD化合物のユニークなメカニズムやインパクトのあるデータに、「これは面白い!」と興味を持ち、ピッチが終わったあとすぐに駆け寄って名刺交換をお願いしました。

どのような流れで
インキュベーションに
進んだのか、
具体的に
教えていただけますか。

細田:

2020年1月当時はまだ起業していなかったので、北里大学のチームとしてイベントに参加していました。帰国後すぐに北里大学と大鵬イノベーションズとの間で秘密保持契約を締結し、詳しいデータなどを見ていただきました。その後、北里大学と大鵬イノベーションズとの間でインキュベーション契約を8月に結んで、1年間、起業するために必要なデータを補うための支援をしていただきました。その際、研究面だけではなく開発戦略や知財戦略なども大鵬イノベーションズと議論し、高いレベルの目標設定をしました。最終的に1年ですべてクリアして、起業に至った次第です。

森:

当時はまだ大鵬イノベーションズが設立されたばかりで、実績としては創薬ベンチャー企業への投資1件のみでした。 日本はサイエンスのレベルが非常に高いものの、創薬のスタートアップは生まれにくいという実情があると認識しています。大鵬イノベーションズは、そのようなギャップを埋めて日本のスタートアップの環境やエコシステムを変えることに貢献したいと考えています。具体的には、単純に投資するだけではなく、製薬会社の経験やノウハウを活かし、インキュベーション活動としてアカデミアの先生方と起業に必要なデータ取得や事業戦略などを一緒に策定した上で会社を立ち上げ、その後投資という形でサポートを継続したいと考えています。
細田先生のピッチを聞いて「これはまさに1つの題材になりそうだ!」と思ったので、ホテルに帰ってすぐ日本にいるメンバーにその興奮をメールで伝え、秘密保持契約を締結できるように手配しました。帰国後に、細田先生や供田先生の技術の評価と併せてインキュベーションの目標設定やサポートの内容を社内で検討しました。その後、起業までに達成すべき4つのクライテリアや予算案、契約期間について提案し、両者で協議を経て、出会いから約半年後の2020年8月に契約を締結し当社のインキュベーション第1号としてスタートすることができました。

投資目的だけではない
「一緒に事業を
育て上げていく」ための
ハンズオン支援

細田社長は研究者から
社長へのキャリアチェンジで
不安も多かったかと思います。

細田:

私は供田先生のラボで、ずっと探索研究を行っていました。そして、北里大学の特任助教になったタイミングで、供田先生に国の助成金を獲得していただいて、自分で発見した化合物を研究開発する機会を得ました。その時に研究開発のおもしろさに触れていたので、自分たちが見つけた化合物を創薬につなげるところには、非常に関心が高かったのです。

特任助教の任期終了後は製薬会社に就職することも考えたのですが、供田先生の研究成果を実用化していくために、自分たちでベンチャー企業を立ち上げることを選びました。最初は何から手をつけたらいいかわからず、それを勉強するためにいろんなアクセラレータープログラムに参加していたときに、森さんと出会うことができたのです。暗中模索していた中でやるべきことを示唆いただけたという点で、非常にサポーティブだったと感じています。

ちなみに他の投資家からの

お声がけはあったのでしょうか。

細田:

供田先生たちがPRD化合物に関する有用なデータを多く取得されていたので、投資を目的としたお声がけをいただくことはありました。ただ、私自身に経験がなくそういうお話をいただいても、何をどうお答えすればいいか戸惑いを感じていました。

大鵬イノベーションズが「一緒に事業を育て上げていく」という考えの下、製薬会社目線で起業までの目標を設定してくださり、私としても供田先生としても非常にやりやすかったです。「ハンズオン」という言葉では簡単に言い表せないほど、サポートしていただきました。

大鵬イノベーションズ側では、
どのような観点で
支援をしていたのですか。

森:

先ほど述べたように、なぜ日本では創薬スタートアップが生まれにくいのか、またその成功例が少ないのかと考えたときに、製薬会社の視点が必要なのではと考えていました。言い換えると、スタートアップが創薬を進める上で、将来的にどのような状態になっていればEXITの1つである製薬会社との提携を実現できるのか、という観点です。私たちはそこからバックキャスティングして、今何をすべきかと考えることを意識して支援しました。

例えば、今回のPRD Therapeuticsのケースですと、製薬会社が期待するのは有望な新薬あるいは開発品の獲得です。先生方はユニークな創薬コンセプトに加え、疾患モデル動物でのデータなど豊富な薬効データをお持ちであった一方で、薬の安全性を予測するために必要なデータはほとんどお持ちでありませんでした。他にも、開発の成功を左右する対象疾患の選定や開発戦略、薬の製造方法、ビジネスにする上での欠かせない知的財産戦略なども検討する必要がありました。そういった足りない部分を、追加データの取得や戦略策定によって一緒に埋めていくことで製薬会社や投資家に興味を持ってもらえるように、サポートしました。

一方で、米国においてはそこまでの支援は求められないケースも多いです。ボストンでは創薬ベンチャーや薬剤開発を成功に導いた経験がある経営者が起業やスタートアップの経営を行っていることが理由の1つです。私は、大鵬イノベーションズ参画の前に、Remiges Venturesに出向しており、ボストンを拠点にベンチャー投資の経験を積んできました。そこで得た投資のノウハウやベンチャー支援の仕方などが今回のインキュベーションを行う上での大きな礎となっています。これからも、米国のエコシステムから得た経験を基に、日本の環境に合ったアカデミアシーズの社会実装化の支援をしたいと考えています。

大学、製薬会社、
投資家との目線合わせに
苦渋するも、
最終的にWin-Winの形に

出会いから起業、
そして現在まで、
ターニングポイントになった
出来事や苦労されたことを
教えてください。

細田:

私にとってのターニングポイントは、まず間違いなくサンフランシスコで森さんと出会ったことです。起業は本当に未知の体験でしたが、森さんのサポートのおかげで乗り切ることができました。

実は、一番苦労したのは、北里大学とライセンス契約を締結することでした。もともと北里大学の知的財産であった研究成果を、新会社で使えるようにするための契約です。論点はいろいろあったのですが、アカデミア発のシーズを実用化する過程において大学側と意見の相違がありました。どちらも価値は認めているものの、まだ実用化には至っていない研究の成果を、どう価値評価するかという話し合いが必要でした。

「最初に大学からライセンス契約によって権利を買うのか」、「ストックオプションのように将来的なリターンを大学が得る形にするのか」など、対価や知的財産の移管の方法を決めるところでも議論になりました。そして、最終的にはライセンス契約を締結する形になりました。ライセンサーになる大学は、知的財産権利者として果たすべき責任などが生じるため、その体制作りにも尽力しました。最初は私が大学側と話をしていましたが、二者間で話がまとまらなかったため森さんにも入っていただき、三者間で協議しました。最終的には、Win-Winの形で交渉が成立したと思っています。これは北里大学特有の問題ではなく、まだ大学発ベンチャーの数が少ない国内の大学であればどこの大学でも直面する問題だと思います。

森:

私が苦労したのは、薬の研究開発における、製薬会社や投資家、そしてアカデミアの先生方の考えの間にあるギャップを埋めることでした。社会実装に向けてビジネスを一緒に進めていく上で、どのようなデータをどのようなタイムラインで取得すべきか、また発生した課題をどのように捉え如何に対処するかなど、日々の事象に対しスピーディーに決断を下し実行に移すためには当事者間の目線合わせが必要でした。このギャップを埋めるのは短期間ではできないことなので、当事者がしっかりと話し合いの時間を取り、お互いを尊重し信頼関係を構築することが大切だと感じています。

ターニングポイントになった出来事は、やはり私にとっても、細田先生との出会いです。そこから目標を決めて一緒にやってきたのですが、共に立ち上げた会社とその事業計画を他の投資家の方々にも評価してもらえたことは、第2のターニングポイントと言えると思います。シリーズAラウンドのリード投資家であるジャフコグループ株式会社を始め、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社、みずほキャピタル株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社の皆さまと一緒にPRD Therapeuticsの次のステージを支援し、開発を加速できることをとても嬉しく思います。

サイエンスだけでなく
ビジネス面での
幅広い理解が必要

PRD Therapeuticsが、
インキュベーション
パートナーに求めるものを
教えてください。

細田:

森さんのお話にもあったように、米国ではベンチャーエコシステムが非常に発達していて、スタートアップをEXITに導いた成功者や経営者がたくさんいます。ですから、経営者として何をしたら良いかをわかっている人が、ビジネスを回しているわけです。

一方で、日本ではそういった人材があまりいません。「スタートアップを起業したい」と思っても、何をしたらいいのかわからなくて困っているケースが多いです。特に創薬スタートアップは専門知識が必要なのでハードルが高いと感じて、チャレンジをやめてしまう人もいます。

冒頭でお話ししたように、私自身も「起業してみたいものの、何から着手したらいいかわからない」という事態に直面していたときに、大鵬イノベーションズのインキュベーション事業に助けられました。PRD Therapeuticsの場合、インキュベーションの際、どの疾患を対象として、どのように臨床試験を行うかなど、開発戦略の策定も必要でした。ですので、インキュベーションパートナーに期待することは、薬剤開発に関する深い知識とネットワークを駆使し、ビジネス面においてもプロジェクトの推進をサポートいただくことだと考えています。

インキュベーションの
活用で、
起業の意思を
持った人が参入しやすい
システム形成と
新たな事業展開を
目指したい

PRD Therapeuticsが、
大鵬イノベーションズに
期待していることや

今後のビジョンについて
教えてください。

細田:

抽象的な話になりますが、PRD Therapeuticsとして大鵬イノベーションズに期待することは引き続き製薬会社の目線でアカデミアのアセットの評価やサポートを続けていただきたいということです。個人的にはインキュベーションという支援をいただいたおかげで今があると感じているので、この素晴らしいシステムを、日本の他の製薬企業や投資家などにも広めていただき、日本式のベンチャーエコシステムを構築していってもらいたいです。

大学の教員や研究者にとって起業のハードルは高いですが、インキュベーションというシステムが普及することでそのギャップを埋めることができ、起業の意思を持った人がさらにベンチャーエコシステムに参入しやすくなります。そういった日本式のシステム形成に、インキュベーションが活用できるのではないかと期待しています。

例えば、もし私が成功して、また他の会社を起業することになった場合には、インキュベーションで得た知識や経験を持っていますので、今度は自分がインキュベーション支援する側になって新しい人を巻き込むこともできます。将来的には製薬会社や投資家がインキュベーション支援をする必要がなくなって、米国に追いつけるのかなと思います。

細田社長のお話を受けて、
大鵬イノベーションズ側と
してはいかがですか。

森:

インキュベーションについて好意的な意見をいただきありがとうございます。しかし、今回のインキュベーションは、投資家にとっても、前例がほとんどない取り組みでしたので常に手探りで進めてきたというのが正直なところです。振り返ると何度も壁にぶち当たりましたが、その都度あきらめずに協議を重ね、製薬業界やスタートアップエコシステムに関わる方々のサポートもいただきながら、前に進めることができたと思っています。

そういう意味でも、アセットを託していただいた北里大学や私たちと一緒に先に進むことを選んでいただいた細田先生、供田先生に感謝いたします。PRD Therapeuticsを成功に導き、薬を患者さんにいち早く届けることを第一に考えていますが、将来的には、また細田先生と一緒に2つ目のスタートアップを手がけられたらいいなと思っています。それが、日本におけるスタートアップエコシステムの形成にもつながると感じています。

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